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心神喪失者等医療観察法 Q & A 16〜19


Q16.鑑定医とは、どのような資格を持った人がなるのですか?

Answer 16.
 この法による鑑定は、「精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師」が行うことになっています。「精神保健判定医」とは、「この法律に定める精神保健審判員の職務を行うのに必要な学識経験を有する医師」のことで、「精神保健審判員」とは、この法に基づいて、裁判官と合議をして対象者の処遇等について決定をする人のことです。現状では、所定の3日間の研修を終えた精神科医がなることができるもので、いわゆる司法精神医学・司法精神医療への特別の経験は必要ありません。

中島 直(精神科医)
2007年7月

Q17.鑑定入院の期間は定められているのですか?
 審判の決定が下るまでの間に対象行為を行った際の精神症状が改善された場合はどうなるのですか?

Answer 17.
 鑑定入院の期間については、申し立ての却下か入院・通院命令等の決定が出るまでですが、長くても2ヶ月を超えてはいけないと定められています。ただし、1ヶ月間に限り延長することができるとされており、最長で3ヶ月となります。
 このような長期にわたる鑑定中には、対象者の精神症状は多くの場合変化しています。中には、精神症状が消失してしまうこともないではありませんから、質問のように「対象行為を行った際の精神症状が改善された場合」が問題になることは決して珍しいことではありません。
 しかし、この法律では条文を読む限りは、その際の処遇を決定する根拠がありません。そのために、すでに現実には、精神症状が改善して通院治療をしている対象者が、あらためて入院処遇を命じられるという、常識的には理不尽なことも起こっています。
 というのは、肝心の条文中に「同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせるか否かについて」鑑定を行うとありますが、そうすると鑑定終了時に「事件時の精神症状」そのものは改善していたとしても、再発に対する処置が十分でないと見なされれば、なおこの法による処遇を行う根拠となりうるからです。
 しかし、もう一方で、鑑定中に精神症状が改善したとすれば、それは一般精神科医療によって改善したということを実証したことになるわけですから、「この法律による医療を受けさせる」必要がないことも明らかです。
 法律には運用の実態によって解釈が変わるという宿命がありますから、このような解釈の違いが生じること自体を責めるわけにはいきませんが、そもそもの条文中、しかも法律の最も根幹となる条文にトートロジー(同語反復:定義の中に定義されるべきもの自身が現れてしまっていること)が含まれてしまうような法律を成立させたことは、日本の立法府の汚点といってよいでしょう。

高木俊介(精神科医) 横田泉(精神科医)
2007年7月

Q18. 対象者が後にその行為をしたことを否定した場合には、再審の請求はできますか?
 また、その行為と無関係であることが後で判明した場合には、誰が責任をとるのですか?

Answer 18.
 この法律では、再審手続きは用意されていません。国会審議の際にこの議論は欠落していました。このことは、強制入院という強制処分を国の権限で行う以上、誤った判断であることが後日判明した場合には、直ちに強制処分を取り消し、治療が必要な場合には通常の精神保健福祉法に基づく治療手続きに乗せる必要があります。
 再審手続きはありませんが、この手続きを行政処分という視点からみれば、処分の前提要件を欠く処分は明らかに無効ですから行政処分無効確認の訴えを起こすことが考えられます。また最終的には人身保護法2条における「法律上正当な手続きによらないで身体の自由を拘束されている者」に該当しますので、同法による救出も検討すべきことになるでしょう。ただ、一般法による救済は例外であり、本来この法制度の中で、誤った判断に対する是正措置は用意されるべきであり、再審規定を定めていない現行法は重大な欠陥を抱えていると言わざるを得ません。早急に法改正されなければなりません。
  そこで、再度この法律が対象とする事実(法2条2項)の存否の判断について、手続きの流れを確認しておきます。検察官が申し立てをする際に、それまでに収集された捜査記録一切は裁判所に提出されます。そして、提出された記録については付添人も裁判所の許可を得て謄写することができます。付添人はその記録で特定された対象行為について、対象者に面会した際に、事実関係の存否について確認します。そのような経過の中で、もし、対象者が事実関係を否定すれば、当然審判に際しては「入院決定の当否」の判断に先立って、「対象事実の存否」について審理を求めることになり、事実の存否について裁判所が誤った判断をすれば「抗告」「再抗告」と争う手続きは用意されています。しかし、対象者が当初、付添人に事実関係を争わなかった場合は、審判においては「入院決定の当否」を中心に審理が進められることになります。
 ただ、付添人としては「対象者が事実関係を争わない」という判断は、慎重にすべきです。対象者の事件当日の認識には病気による欠落、妄想、その他により変容している可能性があります。対象者の説明と捜査記録(この信用性も疑問の視点を持って読み込む必要があります)に含まれている事実経過との整合性を確認しながら判断する必要があります。
 事件の状況を知っている支援者がいる場合は、早期に対象者の認識の誤りなどがあれば付添人に情報提供してもらう必要があります。
 「誰が責任をとるのですか?」という質問ですが、刑事裁判で再審無罪が確定した場合には、担当検察官と担当裁判官の責任を問うことになりますが、このような場合は検察官、裁判官個人の責任ではなく、国が責任を負います。その前提としては担当検察官と担当裁判官に証拠の見落としなどの過失があったと認められなければなりません。

池田直樹(弁護士)
2007年7月

 

Q19. 鑑定入院受け入れ病院・指定入院医療機関・指定通院医療機関には、
   どこから、どれくらいの報酬が出るのですか?


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