医療観察法.NET

厚生労働省令第133号に関する意見

2008年9月
医療観察法.NET制作委員会


厚生労働省令第百三十三号
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に基づく指定医療機関等に関する省令の一部を改正する省令」に関する意見


 私たちは、医療観察法が施行されてからこの法律がどのように運用されるのかを見守ってきました。それは、この法律が、精神障害者に限って、未だ罪を犯していない人を、将来罪を犯す可能性があるからという理由で、拘束し、自由および幸福の追求という基本的人権を制限するという非常に危うい法律だからです。
 そして、そのような重大な懸念のある法律であるにもかかわらず、その内実が私たちに見えてこないと感じているからです。医療観察法は、「この法律によらなければ重大な他害行為を再び行う具体的現実的な可能性があるものに限って適用する」こと、それから「この法律による医療は、一般の精神科医療に比べて手厚い医療であり、法律の対象となる精神障害者にとっても利益になる」という理由から、基本的人権を制限する根拠としてきました。
 ところが、去る8月1日厚生労働省令第百三十三号が出されました。これは、医療観察法病棟が満床になった場合は、他の一般の病院に対象者を移しても良いという内容でした。
 つまり、「この法律による医療は、一般の精神科医療に比べて手厚い医療であり、法律の対象となる精神障害者にとっても利益になる」という、精神障害者の人権を制限する根拠自体を反故にするものだったのです。

この省令について、私たちは以下の点で看過できない重大な問題だと考えています。医療観察法は運用面ですでに破綻しており、それは姑息的省令によって繕えるようなものではありません。
 医療観察法は、速やかに凍結され、廃止を含む抜本的見直しが行われるべきだと考えます。

 

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省令は、姑息的で非本質的な改正のように見せかけられていますが、法の根幹に関わる改正であり、法の理念や目的自体の変質です。「手厚い医療」であることを理由に基本的人権の制限を正当化している法律で、手厚い医療の保障自体を反故にするという改正だからです。

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この省令が出された理由は、医療観察法病棟の増床がなかなか進まないために、入院処遇になる対象者が溢れてしまったからです。法が施行されてまだ3年しかたっていない段階ですでに満床になってしまうというのは、そもそもこの法の運用面における予測に大きな誤りがあったとしか言えません。

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そして、その誤りは省令に定めるような姑息的な方法で解消することは困難です。医療観察法病棟の増床が可能なのかどうか、可能だとしてその時期はいつになるのかについて、何の情報も開示されていません。それでは、省令に言うような措置が緊急的一時的な措置なのか、恒常的なものになるのかが判断できません。これまでの医療観察法病棟・病床の増設が遅々として進まなかった現実からは、姑息的・一時的なはずの省令が恒常的なものになってしまうのではないかという懸念があります。まさに姑息的・一時的な解消策であった精神科特例が、今なお精神科医療の足を引っ張り続けているように。

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省令に関して、一般市民が意見を述べることの出来る唯一の機会であるパブリック・コメントは平成20年7月18日から25日までの8日間のみという短期間で設定されました。
 その理由は「速やかに改正を実施する必要があることから」とされています。しかし、病床がどの時点で不足するかは、これまでのデータから簡単に割り出せたはずです。病床が不足することがある時点で起こることは、1年以上前からわかっていたはず。にもかかわらず、「速やかに改正を云々」というのは、広く公に議論が起こっては困るという考えがあったのではないか、本当は隠密裏に行うことを意図して、あえてギリギリのタイミングで行ったのではないかと疑わざるを得ません。

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パブリック・コメントの募集の終了から、省令の公表までは7日間しかありませんでした。いったい、パブリック・コメントは、この省令にどのように反映されているのでしょうか。パブリック・コメントの募集がアリバイ的に行われた茶番でしかないとしたら、まったく市民を愚弄するものです。

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省令では、満床になったことを理由に他の病院に移された対象者は、満床状態が解消されれば速やかに元の医療観察法病棟にもどされるということになっています。これは、ある意味では当然のことです。しかし、入院とは寝場所をどこにするのかというだけの問題ではありません。主治医や看護師、PSW、臨床心理技術者、作業療法士などとの関係を前提にした治療という継続的共同作業の行われる場所です。それが、満員になったから、よその病院に行けとか、ベッドが空いたから戻って来いということでは、医療の継続性は寸断されてしまいます。そんな基本的なことを保障することも出来ずに、医療観察法による医療は良質な医療だといえるでしょうか。

医療観察法病棟の病床の不足は、省令が定められる以前からすでに起こっていたと報道されています。もしそれが事実なら、これはゆゆしき人権侵害と言わざるを得ません。まず、これまでその病床の不足がどのような方法で解消されてきたのかが明らかにされるべきだと考えます。

医療観察法病棟での入院過剰問題は、ベッド数の不足という目に見える形で起こりました。
 このようなことは、通院処遇においても起こる可能性があります。しかし、通院処遇で同様のことが起こっても、今回のようにはっきりと我々の目に見えるような形にはならず、じわじわと医療の質の低下が起こるでしょう。そうなれば、通院処遇には医療の質の担保なき強制性だけが残ることになります。

 

参照資料
官報4883号より(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に基づく指定医療機関等に関する省令の一部を改正する省令)pdf 36KB

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関連して出された通達
障害保健福祉部長から
障害保健課長から
近畿厚生局から

 

 

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