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障害者の権利に関する条約 概要(武器としての要約)

八尋光秀(弁護士)
2007年10月

前文


(個人の尊厳、平等原則)
すべて人間の固有の尊厳、平等、権利をすべからく保障することが、世界の自由、正義、平和の基礎をなす。世界はそれを理解し合意した。すべての人権、基本的自由は普遍的であり、不可分で相互に依存関連するものであり、そのためにすべての障害者がこれらを差別なしに完全に享有することを保障しなければならない。 
(条約成文に至る経緯)
この条約は国際人権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問禁止条約、子どもの権利条約、移住労働者の権利条約に連なるものである。 
(障害の概念)
障害は発展する概念であり、社会の障害者に対する態度及び環境による障壁と障害者との相互作用であって、障害が他の者と平等に社会に完全かつ実効的に参加することを妨げるもの
(社会構造体)
によって生ずること(つまり障害者に立ちはだかる障害は社会のほうにあること)を認める。 
(具体的な目標)
障害者が国家や社会の政策及び計画にかかる意思決定に参加する機会を保障し、差別の存在を確認し、さらには障害のある女性に対する大いなる危険の存在を認め、障害のある子どもへのすべての人権と自由の完全な享有など、障害者の権利の完全かつ平等な保障を実現し、障害者の、市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野における均等な機会による社会参加を促進し確保する。

1条

目的
様々な社会的障壁によって障害者が他の者と平等に社会に完全かつ実効的に参加することを妨げられるおそれのあるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を確保し、その固有の尊厳への尊重を促進し、社会への平等かつ完全な参加を保障すること。

2条

定義
コミュニケーション(意思疎通)、言語、障害を理由とする差別、合理的配慮、ユニバーサルデザインに関する意味づけ。

3条

一般原則
個人の尊厳、自己決定権、差別禁止、社会への完全かつ実効的な参加権の保障と社会の完全な受け入れ義務、障害者である前に人間であるとして受け入れられること、あらゆる機会の均等、利用可能な施設サービスの整備、男女の平等、障害のある子どもに対する個人の尊厳、個性の尊重及び発展可能性の保障。

4条

一般的義務
国は、障害を理由とするいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、促進する義務を負う。

5条

平等原則・差別禁止
国はすべての者は法律の前に及び法の下に平等であるという平等原則に基づいて、あらゆる差別の禁止と平等な法的保護と利益を受ける権利を有することを法的に認める。国は、障害者に対して、すべての場所において、すべての差別を禁止しなければならず、差別に対する法的保護を平等かつ実効的に保障する。国は、平等を促進し差別を撤廃することを目的として、合理的配慮を確実に提供するためすべての適切な方策をとらなければならない。

6条

障害ある女性の権利
国は障害のある女性が複合的な差別を受けていることを法的に認め、これを克服するためにすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享受を確実にするための方策をとらなければならない。国は女性がこの条約に定める人権及び基本的自由を行使し享受することができるように、女性の完全な能力開発、向上及び自己決定力を確保するための適切な諸施策を講じなければならない。

7条

障害ある子どもの権利
国は障害のある子どもが他の子どもと共に等しくすべての人権及び基本的自由の完全な保障を確実にするために必要なあらゆる諸施策を講じなければならない。障害のある子どもに関するすべての措置をとる場合には、子どもの最善の利益を最も重要な判断要素としなければならない。国は障害のある子どもが自らに影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利、ならびに、障害のある子どもの意見は、他の子どもの意見と平等に年齢と成熟に従って正当に評価されるものとして、この権利を実現するために相応しい障害や年齢に応じた適切な支援を確実にしなければならない。

8条

意識の引き上げ(向上・育成・克服・促進)
国は障害者の権利及び尊厳の尊重を育成し、障害者に対する定型化した観念、偏見、有害な慣行と戦い、障害者の能力などに関する意識を向上させるために即時に効果的な施策を行う。

9条

施設及びサービスを利用する権利(アクセス障害の撤廃を求める権利)
国は障害者の権利及び尊厳の尊重を育成し、障害者に対する定型化した観念、偏見、有害な慣行と戦い、障害者の能力などに関する意識を向上させるために即時に効果的な施策を行う。

10条

生命(人生と尊厳)への固有の権利
国は障害者が等しく生命に関する固有の権利を実効的に享有できるようにすべての必要な措置をとらなければならない。

11条

危急時における保護及び安全を確保される権利
国は様々な危険な状況において障害者の保護及び安全を確保しなければならない。

12条

法の前の平等
国は障害者が法の前に人としてすべての場所や状況において等しく承認される権利を有することを断言し、そのために必要な支援を行う。法的能力に関しては、障害者の意思や選択を尊重し、利益相反や不当な影響がないこと、公正・適切で可能な限り短期間に限定されるごと、独立かつ中立な機関。または司法機関による定期的な審査による監視がなされなければならない。

13条

司法手続への権利
国は障害者が等しく司法手続きを実効的に利用できるようにしなければならない。

14条

身体の自由及び安全についての権利
国は障害者が等しく身体の自由及び安全についての権利を有することを保障し、いかなる自由も、法律に従わず、また、障害の存在によって奪わない。

15条

拷問、残酷、非人道的、品位を傷つける取り扱いもしくは罰を受けない権利
いかなる障害者も拷問、残酷、非人道的、品位を傷つける取り扱いもしくは罰を
受けない権利を有する。
国は、これを防止するために、平等原則に則って、すべての実効的な立法上、行政上、司法上の措置をとらなければならない。

16条

搾取、暴力、虐待から守られる権利
国は障害者が搾取、暴力、虐待を受けないようにするために必要なすべての適当な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとらなければならない。さらには回復のための適切な措置をとらなければならない。

17条

個人としての完全性を保護される権利
すべての障害者は個人としての身体的・精神的な完全性を等しく尊重され保護される権利を有する。

18条

移動及び国籍取得の権利
国は障害者が等しく移動の自由、居住の自由及び国籍についての権利を有することを法的に認め、障害を理由として奪われないことを保障する。

19条

地域社会への完全参加の権利(自らの地域に所属し、独立した人生を生きる権利)
国はすべての障害者が等しくその選択にしたがって地域社会で生活する権利を有し、この権利を完全に享受し、地域社会に安全に受け入れられ、参加できるように実効的かつ適切な措置をとらなければならない。

20条

個人的な移動支援に関する権利
国は障害者が個人的な移動を自主的にすることが確実にできるように実効的な借置をとらなければならない。

21条

表現の自由及び情報にアクセスする権利
国は障害者があらゆる形態のコミュニケーションにおいて、自己の選択する方法による表現及び意見表明の自由ならびに必要な情報を発受する権利を確実に行使することができるように実行的な措置をとらなければならない。

22条

プライバシーを尊重される権利
いかなる障害者もプライバシー、家族、住居、通信、コミュニケーションヘの干渉を受けず、名誉、信用の保護を受ける権利を有する。国は等しく障害者のプライバシーを保護しなければならない。

23条

家族、家庭に関して尊重される権利(家族、家庭に関する平等と自己決定の権利)
国は、障害者の家族、家庭に係わるすべての事項に関して差別を撤廃し、障害者がこれらの事項に関して平等及び自己決定権を含む基本的な権利を等しく確実に享受できるように実効的かつ適切な措置をとらなければならない。

24条

教育を受ける権利
国は教育についての障害者の権利を認め、差別のない機会の均等及び一生涯を通じたあらゆる段階におけるすべての教育制度への完全かつ平等な参加が確実にできるように実効的かつ適切な措置をとらなければならない。

25条

健康を享受する権利(保健サービスを受ける権利)
国は障害者が障害を理由とする差別なしに到達可能な最高水準の健康を差別されることなくして享受する権利を有することを法的に認める。国は障害者が性別に配慮されたリハビリテーションを含む保健サービスを確実に利用できるように実効的かつ適切なあらゆる措置をとらなければならない。

26条

ハビリテーション及びリハビリテーションを受ける権利
国は、障害者が持続的にピアサポートを得られることを含めて人生のあらゆる側面において、地域に完全に受け入れられ参加できるようにし、自主性とともに十分な身体的、精神的、社会的、職業的な能力を最大限に発揮できるように実効的で適切な措置をとらなければならない。このため国は、とくに健康、雇用、教育、社会生活にかかわる分野において、包括的なハビリテーション及びリハビリテーションに関する網羅的なサービス及びプログラムを組織し強化し拡大しなければならない。

27条

労働及び雇用についての権利
国は障害者が等しく労働及び雇用についての基本的権利を有することを法的に認める。この権利は障害者が開かれた利用可能な労働市場や労働環境のなかで自由に選択し受容した労働によって生計を立て得る機会を有する権利を含む。国は、差別の禁止、平等を含む公正かつ良好な労働条件の確保などその他の実効的で適切な措置をとることにより、労働にかかわるこの権利の実現を保障し促進する。

28条

十分な生活水準及び社会的な保障を受ける権利
国は障害者が障害者自身及びその家族のために十分な食料、衣類、住居の提供を含む十分な生活水準の保障を受け、またその生活状態について持続的な向上を求める権利を持つことを法的に認め、障害を理由とする差別なしに、この権利を実現し促進するために適切な措置をとらなければならない。国は障害者が社会的な保障を受ける権利及び障害を理由とする差別を受けることなくこの権利の実現を保障し促進するために適切な方策を講じなければならない。

29条

政治的及び公的な活動へ参加する権利
国は障害者に対し政治的権利を保障し、選挙にかかわる諸権利を守り、政治的活動への差別のない平等参加が実効的かつ完全に実現できるような環境を積極的に促進して、等しくこの権利を享受する機会を保障しなければならない。

30条

文化的な生活、レジャー、スポーツに参加する権利
国は障害者が地域の文化的な生活へ等しく参加し共有することができる権利を法的に認め、その確保のために必要なすべての適切な措置をとらなければならない。

31条

統計及び資料収集の義務
国はこの条約を実現するための政策を立案し実施するための適切な情報(統計及び研究資料)を収集ならびに保存しなければならない。

32条

国際協力の義務
国はこの条約の目的及び趣旨を実現するために国際協力が重要であることを認識し、国家間などと連携し、適切かつ実効的な措置をとらなければならない。

33条

国内における実施及び監視の義務
国は自国の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、監視するための独立した機構、機関を設置しなければならない。

34条

障害者の権利に関する委員会の設置
国際連合に障害者の権利に関する委員会を設置する。

35条

国の委員会への報告義務
国は権利委員会に対して義務を履行するためにとった措置及びこの措置によってもたらされた進歩に関して包括的に報告をしなければならない。

36条

委員会の権限
委員会は各国の報告を検討し、追加報告要請、審査、提案、勧告などを行う。

37条

国の協力義務
国は委員会に協力し、委員の任務の遂行を援助する。

38条

権利委員会と他の専門機関等との連携
この条約の効果的な実施を促進するために専門機関その他の国際連合機関は委員会と連携する。

39条

権利委員会の報告及び勧告
委員会はその活動を2年ごとに国際連合総会及び経済社会理事会に報告する。

40条

締約国会議
締約国は定期的に締約国会議を開催する。

41条

寄託
この条約の寄託者は、国際連合事務総長とする。

42条

署名

43条

批准、確認、加入

44条

国家統合機関

45条

発効

46条

留保

47条

改正

48条

廃棄

49条

様式

50条

正文


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