医療観察法.NET

医療観察法対象者インタビュー Part5

2008年11月
医療観察法.NET制作委員会

誰が賠償する? 間違った審判と人権侵害

池原  Aさんの心の中には、これは事実そうだけど、間違って東京の病院に送られていたというのがある。そうすると、どうしてもこのシステムに対する信頼というのは持てないですよ。言ってみれば無実の罪で刑務所に入れられたみたいなものだから。無実なんだけど執行猶予は残っているような感じでしょ。何で自分がそんな事をされなければいけないんだろうという気持ちは多分ぬぐいきれないでしょうね。本当だったら国家賠償ものなわけですから。無理やり、1ヶ月半ぐらいにせよ、鑑定入院も入れれば約5ヶ月近くを医療観察法の下で自由を奪われているわけでしょ。帰りについてもほったらかしで「勝手に帰れ」で、金も出さなければ、ガイドもつけないという事だった。そんな事をされておいて、あなたの為の通院、面倒見てあげますよと言われたって、そりゃ信じられない。それ何でもないですと言ったらそっちの方がよっぽど病気かもしれないですよね。

Aさん本人  あっちは全然僕の事を理解していないから、そして、また病院入れるぞみたいな事を言ってきて、同じ事を繰り返してくる、それがたまらなく嫌なんです。だからそれを変える為の要件を、やっぱり病院で病名を変えるとか

池原  診断で違うかもしれない事が1つと、そもそもそんなに人を殴っちゃったりするような人間じゃないという事を、ちゃんとはっきりさせる事ですよね。

 

誤診問題がもたらすもの

録音・記録の有我  実はAさんみたいに病名が違うのに医療観察法の病棟に入れられている人が結構いるようなんです。この前司法精神医学会という大会があって、名古屋の東尾張病院と、九州の国立肥前精神保健センターの医者がそれぞれ別々に発表したんですが、だいたい2割ぐらいの人は統合失調症じゃなくて、発達障害だとか、パーソナリティ障害とか他の病気だったんだと。その事をオープンにすると、そもそも入院している事がおかしいじゃないかという話になってしまうので、そこまでは学会では話はしきれていないけど、そういう問題もあるので、病名が鑑定の時に間違っていたという事は非常に大きな事だから、これから僕らも取り上げていかなくちゃならないと思ってるんですよ。そういう場合にどのように救済していったらいいのか。

池原  私もこの間北陸病院という指定入院医療機関で聞いたら、18%前後だと言っていました。前は花巻では村上さんという人が院長をやっていた時は、院長というか、病棟長をやっていた時は、25%と言ってました。だいたいどこでも平均的に送られた人の20%位の人は本当はAさんみたいに入院する必要の無い人という事になっています。ただそれは表立って、間違っていましたって国は言わないじゃないですか。意地でも間違っていないと言い張るのが国なので、そうするとそのままなわけです。だから今の通院なんかだとその延長線上です。要するにまるまる間違っていた、と言えないから、入院はさせないけど、通院は必要なんだよといってるわけです。だけど、言われた側からすればたまらないです。
 逆にそうかと思うとBさんみたいな方は、幸い医療観察法は却下で終わってくれたんだけれども、でもそうしたら何の為に3ヶ月入院させられたのかという事になります。責任能力があるという事になって、だから最初から責任能力があるという事にしてくれれば、8月の2週間ぐらいで終わった話なわけです。罰金は悪い事したんだから払いますよと言って、払えば何事もなく終わるのに、それを約1年ぐらいあーだこーだとぐるぐるやっていって、揚げ句の果てに、「ハイ、結構です。必要ありませんでした」って、だったら最初からやるなという話になるわけです。

Bさん  あの間の辛さは忘れられない。 本人もショックですよね。でも、自分は悪かったと思うから、何にも言えない。ただ、おとなしく。

 

否定されるこれまでの精神医療福祉

池原  例えば東京でもう1つBさんに似た事例の方がいて、やっぱりその人は一応逮捕されて、拘留されたんだけど、病気の状態があまり良くないと言う事で、措置入院になったんです。Bさんの場合は措置入院も必要なくて、いったん鑑定を受けたんだけど、お医者さんが診てそんなに病気重くないから帰っていいよという話になったんです。その人の場合は措置入院になって、治療の効果があって、結局7、8ヶ月の間に退院できたわけ。医療保護入院に切り替えて、任意入院に切り替えて、病院のソーシャルワーカーが色々グループホームの入居の手配したり、作業所を手配したりして、地域で生活できるようにしていって、上手く退院もできて順調で・・・。って言ってたらある日突然裁判所から医療観察法の申し立てになりますので入院ですって言われて、さすがに地域の保健所の保健師が頭にきて、「私たちがここまでやっているのに、何でこんな所で割り込んでくるんだ」という話になって、裁判所に食ってかかったんです。裁判所の説明は、患者さんのためを私たちが思って、良い医療をしてあげたいと思っている、その為の入院ですから、分かってくださいというそういう説明をしたっていうんです。彼らは自分たちは善意だと思っている。その為の入院させて、じっくり診てあげますからという。

Aさん母  何にも診てくれないよね。ただ部屋に突っ込んで、水欲しいとか何か用事ある時だけこうやってあれして、ただそれだけでしょ。あと朝昼晩のご飯ぽろんと置いて。

池原  それだけまだ病気が安定してたから良いんです。あれだけのショックを受けたら僕だっておかしくなりそうだけど、よく耐えている。

Aさん本人  だけどやっぱりそれって国の回し方とかですよね、おかしいですよね。

池原  まず医療というか、病気の人を治してあげるという観点からすれば、本当に病気が重い人に対して、少し強制的な事をする必要になる場合もあるかもしれないけど、医療観察法というのは別に病気が重いかどうかという事とはあまり関係ないんですよ。

 

間違った判断で人を連れまわして、それが「間違ってる」と僕は伝えたかった

Aさん本人  それって判断ミスですよね。絶対。

池原  また悪い事をしたなら悪い事をした、でそれはそれでそれなりの処罰をすれば良いんだけど、そんなのは罰金で2人とも終わってしまうような話で、だから全然見当違いの事をやられているおかげで、とんでもなく大変な事になっちゃうんです。

Bさん  それで本当に病状が悪化する場合だってありますよね。

池原  当然ありますよ。

Aさん本人  だけど、僕はやっぱりそうやって強くいたら、やっぱり良い事もちゃんとあって、ちゃんとみてくれる人もいて、池原弁護士とか。

池原  それは確かにそういう縁でした。

Aさん本人  僕はもとから強いんですよ。大切な人がいっぱいいるから、その人もまだ守らなくちゃいけないから、自分が強くないと駄目だって。僕自身、そういう常識もちゃんと持っているし、あっちの判断のし方が間違っているというのは、あったから、勝つ自信はありましたね。

池原  確かに武蔵病院でもよく耐えてたよね。私が2週間に1回会いましたけど、自分がその立場だとしたら、無実でこういう所に入れられ、閉じ込められてるとしたら、怒鳴り散らすでしょう、多分。でもじっと耐えて、スタッフの言っている事にちゃんと従ったりとかして。ただここにいるのは間違いなんだという事はずっと一貫して訴えてましたよね。

Aさん本人  全然違った事で、ぐるぐる僕を連れ回して、それが間違っているんだよという事を僕は伝えたかったんです。

池原  確かに武蔵病院のスタッフも時間が経つに従って、「やっぱり診断が間違っているんじゃないかと思うんですよ」というような事を言ってきました。
 先ほどお母様同士で一番大変な時に知り合ってたらお互い励まし合えたのにっておっしゃっていて、武蔵病院なんかではこの法律の対象者にされてしまった人たちのご家族で、家族会をというような動きもあるみたいなんです。何を目指す家族会なのかははっきり分かりませんが。

Bさん  この病気の家族ってなるべく隠したいという。

池原  隠したいという気持ちが一方にあるし、地域的に離れすぎているし。

Aさん本人  僕としては今回こういう事があって、やっぱり神様に試されたんだなと思って強くなりました。こうやって帰ってこれたし、それもまたうれしいし。やっぱりその分周りに優しく接するようにできたし。だから神様が試してくれたんだなという事は最終的には思いました。 一歩ずつ、こういう事なんだ、という事を、周りの人に説明したら理解してくれました。池原弁護士に会って、真剣に話を聞いてくれて、力になってくれたというのは大きいですね。周りの医者は結局、正しい事より、グルだから、なんぼ言っても聞かない所があったんですよ。だけど、池原弁護士に会って、ナカムラ弁護士にも支えられたし、結局1/100の確率で出てこれたというのが、振り返ったら良かったなという事です。だけど今回、そうやって間違った事が負担になっているというのは本当に。それもまた、変えたいです。

池原  時間が大分経過しました。本当に遠くから来ていただいて、どうもありがとうございました。お疲れさまでした。

 

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