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法の実態と欠陥 (抄録)

八尋光秀(弁護士)
2008年5月
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1 法施行の処遇概況


 本制度は平成17年度7月1日に始まった。平成19年7月19日に法務省が発表した統計資料によれば、平成19年3月31日時点における処理状況は以下のとおりである。申立総数626件。このうち530件の終局決定がなされた。終局決定の内訳は入院決定302件、通院決定111件、不処遇98件、却下15件、取下げ4件である。平成17年9月以降、月ほぼ15件から20件程度の終局決定がなされている。この間に入院決定及び通院決定を受けた処遇決定件数の総数は413件である。この413件のうち処遇の終了決定がなされたのは4件にとどまる。この4件中、再入院決定がなされたものが2件である。

 

2 法の目的の達成度


 本法の目的は対象者の「社会復帰を促進することを目的とする」ものである。法制定時の説明では対象者に対する「利益処分であっても、不利益処分ではない」とも言われた。施行後1年8ヶ月を経て413人の対象者が強制処分を受けた。このうち処遇終了を得たものは4名で、内2名は再入院となった。結局、法の目的を達成したケースは2件、0.5%にとどまる。その理由は未だ1年8ヶ月しかたっていないからか。2ないし3年の経過を見れば処遇対象者が続々と社会復帰を果たし法の目的は達成されるのか。


3 強制的医療および観察の「質」の向上と社会復帰


 行われる医療および観察などは一般の精神科に比較すれば「良質」のものとなったといわれる。社会復帰に関しても専門職の「支援」が準備されてもいる。しかし、生まれ育った町あるいは自らが選んだ町で対象者が生き抜いていくために必要な最低限の環境が整ったかというとそうではない。一般精神科における長期入院患者の多くには、生まれ育ったあるいは自らが望む地域の中で平穏に人生を送ることのできる居場所を与えられてはいない。同じ様に、否それよりも格段に厳しく、本法の対象者の居場所もない。仮に、関係専門従事者が心血を注ぎ、月日を重ねてもなお、本法がその目的を十分に達成する日が訪れる事はあるまい。

 

4 本法の欠陥


 本法は「良質」な医療および観察に仮装した無期限の強制隔離法となる。私達は強制的医療および観察の「成功」が社会復帰の成功を意味しない現実を見極めなければならない。社会復帰を障害する要因は患者ではなくむしろ社会システムのほうにあるからだ。強制隔離医療は社会と対象者である人間との間に障壁を厚く高く作る。社会復帰につなげる事のできない強制的医療および観察処遇はらい予防法と同様に人間を社会から隔離するためだけの法制度となる。地域の中で受けることのできる平穏で有効な医療や支援の構築をこそ優先しなければならない。夥しい数にのぼる人間のかけがえのない人生被害をもたらす前に私達は立ち止まらなければならない。

以上

 

出典:第4回司法精神医学会大会 プログラム抄録集


 

 

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